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一般報告

NWTによる遠心圧縮機インペラー/ディフューザ翼非定常干渉数値解析の高速化

航空宇宙技術研究所 航空推進研究センター
山根 敬


1.研究の背景

 遠心圧縮機(図1)は軸流圧縮機と比べて小型で高圧縮比を稼ぐことができるものの効率面では劣る。その原因の一つとして回転するインペラー出口付近にしばしば現れる大きな低速度領域(Wake)が知られていたが、これがディフューザ翼に対してどのように作用するか数値解析により調べるためには、定常段解析ではWakeが平均化されてしまうので非定常計算が欠かせない。そこでインペラー2ピッチとディフューザ3ピッチで非定常解析を行った(図2)。しかしながらNWT導入前のVP2600では膨大な計算時間と待ち時間が必要で、1ケースの計算をおこなうのが精一杯であった(図3)。


 


図1 遠心圧縮機モデル




図2 計算に使用した格子




図3 定常計算と非定常計算の比較

2.NWTによる高速化

 NWTの導入により計算環境と飛躍的に向上した。しかしその恩恵にあずかるにはもちろん並列化が必要であった。本研究では回転翼列の複数ピッチを計算対象にしているので、各ピッチ(翼間)にCPU(PE)を1つずつ割り当てるのがもっとも自然な並列化手法である。しかしながら最大5ピッチが計算対象であるため、並列化の効果も最大5倍にしかならない。格子点数を増やすのではなく非定常計算が目的の本研究には不十分であったので、並列化は1つの翼間を分割する手法を採用した(図4)。一方で、各翼間の計算は並列化前と同様、シーケンシャルにおこなった。





図4 2種類の並列化手法の比較(右側を採用)

 この方法で使用できるCPU数は、理論的には格子を分割する方向の点数が48点であったので48個となるが、効率を考慮して最大16PEまで使用した(後に24PEまで使用した)。図5に示すように16PEでも10倍程度の並列化の効果が得られた。この速度はNWT導入前のVP2600と比べても5倍以上であった。また、一つの翼ピッチ内を分割する方法であるため、分割数を2から16まで、NWTの混雑状況によって選択できることも利点となった。




図5 並列化の効果

 この計算速度を生かして、定常計算の解(図3の左の図)から非定常計算への変化(図3の右の図)を動画にした。NWT導入前も同じ計算をしていたが、あまりにも計算時間がかかっていたので途中経過を可視化してみるという発想に至っていなかった。




図をクリックするとMPEG形式の動画が再生されます

3.さらなる計算速度の追求

  NWTは導入時から140台のPEを持っていたが、本研究では24台までしか使用しなかった。すなわちNWTの閑散期には非常にもったいない。そこでさらに高速化することにした。前掲の図4で2通りの並列化方法を説明したが、この両方を組み合わせるとさらに多くのPEを使用できる。
 NWT−FORTRANにはPEの2次元配列の機能が備わっていたのでまずそれを試みたが、コンパイラの仕様上、目的達成は不可能であった。そこで1翼ピッチに16PEずつ5翼ピッチの計算を合計80PEで行う場合を例にとると、各翼ピッチごとに専用のサブルーチンと変数名を定義し、それぞれを16PEずつ割り当てるという乱暴な手段を用いた。すなわち5翼ピッチの計算では、プログラムのソースが約5倍となる。したがって、計算対象のピッチ数や1ピッチに使用するPE数を変える場合にはソースレベルで大幅な変更が必要だが、基本となるソースプログラムから変数名とサブルーチン名を補完して必要なピッチ数ぶんソースプログラムを生成するスクリプトを作成することで解決した。
 この結果、最大120PE(5翼ピッチ、1ピッチあたり24PE)の計算で、約70倍の計算速度が達成された(図6)。実用的には30台から40台程度が当時のNWTの混雑度では使用する側にとっての最高の効率であった。
 この速度を生かして、非定常計算のパラメトリックスタディーまでもが可能になった。詳細は参考文献3を参照されたい。





図6 さらに高速化した並列計算の性能

4.NWT時代の終わりに思うこと

  NWTの導入は、並列計算という未知の世界に扉を開くものであった(いや、放り込まれたという方がより近い表現かもしれない)。しかし並列計算を取り巻く環境は多くの方がご承知のようにNWT導入当時から大きく変わった。前述の研究成果はNWTなくしては達成できなかったものであるが、開発したソースプログラム自体は現在は自分自身でも使用していないのが現実である。高速化のためにソースプログラム自体をスクリプトで生成することまでしてしまうと、もはや他のコンピュータで使用することはできなかった。せめてHPFがもっと早く実現されていれば事情は変わっていたであろうが。このような経験からUPACSの活動に加わることになった。
 とはいえ、NWTの経験は感慨深いものであった。自分の手元になにか記念になるものを残しておきたいと思ったコンピュータシステムはNWTが初めてであり、後継機のCeNSSにはきっとそのような気持ちは持たないのではないかと思う。



参考文献
  1. T.Yamane, "The Transplantation of an Unsteady Navier-Stokes Solver for Cascade Flows onto the NWT System", Proceedings of Parallel CFD Conference 1994 (Parallel Computational Fluid Dynamics: New Algorithms and Applications, pp.137-144, 1995)
  2. T.Yamane, "Further Acceleration of an Unsteady Navier-Stokes Solver for Cascade Flows to the NWT System", roceedings of Parallel CFD Conference 1995 (Parallel Computational Fluid Dynamics:Implementations and Results Using Parallel Computers , pp.411-418, 1995)
  3. T.Yamane, T.Nagashima, "High Speed Centrifugal Impeller and Diffuser Interaction near Stall Conditions", oceedings of the 8th ISUAAT 1997 (Unsteady Aerodynamics and Aeroelasticity of Turbomachines, pp259-271, 1998)
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