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一般報告

遷移解析のこれまでとこれから

航空宇宙技術研究所
野村聡幸


 CFDで翼の摩擦抵抗を正確に計算するのは今もって難題である。理由は3つある。1.どこから境界層遷移が始まるかわからない。2.遷移開始から完全乱流へつなぐ遷移モデルの研究がほとんど行われていない。3.乱流モデルの精度が充分でない。そこで筆者は1に着目した。設計ツールとして利用できる遷移予測手法は今もってN-factor法しかない。これはCFDが現在のように発展する以前に確立された手法であり、非粘性流の計算→境界層の計算→擾乱の増幅率の計算→N値の計算からなる。筆者は非粘性流と境界層の計算を別々に行うのではなく、Navier-Stokesコードで一気に計算し、擾乱の増幅率の計算も90年代に入って確立されたparabolized stability equations(PSE)コードで行う遷移予測システムを開発した(図1)。




 筆者は遷移予測システムを後退円柱上の境界層(参考文献1&2,図2&3)やNALロケット実験機模型の主翼上の境界層(参考文献3&4,図4&5)に適用した。それによりどんな擾乱が境界層中で最も増幅するかわかったが、遷移開始の目安とされるN値が得られた位置と、実験での遷移位置とが一致することはなかった。風洞内の騒音や気流乱れ、そして壁面粗さといった外乱に遷移は強く影響される。高速風洞での外乱は大きく、一方で境界層は極めて薄い。NWT内の外乱のない流れとは掛け離れている。この流れの質の違いと線形増幅過程しか計算しないという手法の限界によって、遷移位置の不一致が生じている。では、非線形増幅過程まで計算すればよいのかというと、話はそう簡単ではない。複数の擾乱の波数、周波数、振幅の大きさを非線形計算のために決めなければならないが、その手法が確立されていない。つまり、自然に境界層が外乱を取り込む過程(受容性)が充分に解明されていない。





 遷移解析の進むべき道は3つある。受容性の実験と計算を限りなく行い、そこから使えそうなモデルを構築する。モデルから得られた擾乱を含む流れをDNSで解けば、遷移過程をシミュレーションできる。しかし、この作業には膨大な人的資源、計算機資源、研究費が必要となるであろう。現状で満足するというのも悪くはない。例えば揚力も抗力もCFDで全く同じとなる翼が2つあったとする。で、どちらを実機に採用するか迷ったときに、遷移予測システムでN値の分布を調べればよい。同コード位置でN値の小さい方が摩擦抵抗の小さい翼である。更にもう一つ、遷移予測システムを逆問題へ拡張するのも面白い。擾乱の増幅を効果的に抑制する翼形状が得られるであろう。この3番目の進路は故高梨進室長の研究と共通点がある。

参考文献
  1. Nomura, T.: Development of a System for Prediction of Boundary-Layer Transition, NAL TR-1397T, 2000.
  2. Nomura, T.: PSE Analysis of Swept-Cylinder Boundary Layers Computed by Navier-Stokes Code, AIAA Paper 2001-2703, 2001.
  3. Nomura, T. and Kuroda, F.: Validation of the Natural-Laminar-Flow Design for the National Experimental Supersonic Transport, Trans. JSASS (in Press).
  4. 野村聡幸, 黒田文武: NEXST-1外翼上での進行波のPSE解析, NAL SP (出版予定).
 
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