タイトル
トップページご挨拶一般報告開発にまつわる話写真集著作権お問い合せ

一般報告

NWTによる希薄予混合燃焼のLarge Eddy Simulation

航空宇宙技術研究所
新城淳史


1.背景

 近年ガスタービンの環境適合性が厳しく求められているが、従来の拡散燃焼に比べてNOx等の有害排出物を抑制できる方法として希薄予混合燃焼が注目されている。しかしながら、希薄予混合燃焼は不安定燃焼に陥りやすいことが知られており、実用燃焼器に用いるには燃焼の安定範囲を拡大しなければならない。その方法として受動・能動制御が研究されているが、燃焼の不安定性にはさまざまな要因があり、安定な燃焼の実現のためには燃焼の挙動の理解が不可欠である。
 燃焼は実験においては計測が非常に難しい分野であり、近年の計測法のめざましい発展をもってしても燃焼場を完全に計測するのは難しい。一方、数値計算における進歩は燃焼研究において数値計算が一つのツールになり得ることを示しつつある。燃焼の数値計算アプローチの一つには、詳細化学反応を組み込み細かい格子を切って計算するDirect Numerical Simulation(DNS)があり火炎構造の解明等でさまざまな寄与を果たしているが、実スケールの燃焼器の計算ではコンピュータリソースの制限上現在ではおよそ不可能である。したがって、何らかのモデルを組み込むことになるが、燃焼現象は本質的に非定常のためLarge Eddy Simulation(LES)のアプローチによって燃焼器システムの計算を行うことにする。LESはレイノルズ平均したRANSのアプローチに比べれば計算機リソースはより必要になるが、NWTのような大型計算機では実現可能である。
 

2.計算手法の概要

 基礎方程式は、燃焼器内の音響特性を捉えるため3次元圧縮性Navier-Stokes方程式である。予混合燃焼の場合は乱流のスケールに比べて火炎の反応帯の厚さは十分薄いと見なすことができるため、火炎をFlameletモデルで表現した。これは火炎を未燃ガス・既燃ガスの不連続面とみなすもので、その形状はG−方程式で記述される。これは火炎面が局所流れの対流速度と燃焼速度で動くことを表している方程式である(文献1参照)。
 LES空間フィルタリングとしてFavreフィルタをかけて空間平均する。解像できないサブグリッドスケール(SGS)モデルは一般的なダイナミックモデルで与えた。燃焼速度は空間平均して火炎面面積が減少した分見かけの速さが大きくなるため乱流燃焼速度を経験式に基づいて与えることにする。希薄メタン・空気予混合気の層流燃焼速度はせいぜい数十cm/sの程度であり、乱流強度に応じて乱流燃焼速度はその数倍から数十倍程度になる。
 ここでは、ガスタービン燃焼器を模擬した形状で計算を行う。燃焼器はダンプ燃焼器としスワール付きのインレット部を接続する。出口は絞りを付け、流れを加速するようにする。燃焼器長さは0.3mとし幅はその半分である。断面形状は矩形とした。
 計算は有限体積法によった。時間積分は2段階Runge-Kutta法によって行った。境界条件は、壁面は断熱壁とした。流入・流出境界は無反射条件を与えた。計算コードはNWT上で領域分割を行い並列化して計算を行った(文献2参照)。
 計算条件は、流入速度約40m/s、圧力1気圧、混合気はメタン・空気で当量比を0.55とした。流入流れの旋回はインレット部に仮想の体積力を加えることによって作った。旋回のスワール数は約0.8である。ここでは、流入混合気の温度をパラメータにして予熱がある場合(800K)および無い場合(400K)について計算結果を示す。

3.結果の概要

 まず、予熱がある場合の結果をアニメーションで示す。

ここでは火炎形状および温度分布の時間変化を示している。この場合、火炎は時間的に細かく形状を変えるものの大きな動きは観察されない。時間平均した流線の様子を図1に示す。




図1 時間平均した流線

スワール付きインレットから燃焼器へ急拡大する段階で中央に大きな再循環領域、また外周にも再循環領域ができていることがわかる。中央の再循環領域は局所的な流速を下げ火炎が吹き飛ばされずに保持される役割を担っている。  次に予熱が無い場合の結果をアニメーションで示す。

この場合は先程の例と異なり、火炎がゆっくりと前後に動いていることがわかる。この場合も同様な再循環領域が形成されるがその形状は時間的に変化している。  燃焼器の外壁下流側3分の2の地点で計測した圧力の時間履歴から燃焼器内の圧力波のスペクトルを描いたのが図2である。図では緑が予熱無し、赤が予熱ありである。





図2 圧力波のスペクトル

 燃焼器の形状および燃焼ガス中の音速から概算した音響振動モードは4分の1波長で約700Hz-900Hz前後であり、それ以上は高次の振動が生じる。両ケースともその付近に振動が見られるが、予熱なしの場合はさらに低い周波数でのピークも見られる。これは火炎と流れ場の干渉が引き起こしていると考えられる。  この結果から燃焼器の火炎の挙動には、音響特性、作動条件、流れと火炎の干渉等のさまざまな要因が関係していることがわかる。LESのように非定常な計算を行うことでそれらの理解を深めることができると思われる。ただし、このようなLESでは計算結果はモデルに影響を受けるためモデル化等については更なる検討が必要である。

4.まとめ

 燃焼器内の火炎挙動のLESをNWT上で計算した。燃焼器を領域分割して並列化し効率的に解くことができた。火炎は、燃焼器内の音響特性、作動条件、流れ場などに深く影響を受けるため複雑な挙動を示すことがわかった。モデル化等については更なる検討が必要である。


参考文献
  1. Peters, N., Turbulent Combustion, Cambridge University Press, 2000
  2. Shinjo, J., Mizobuchi, Y., Tachibana, S. and Ogawa, S., Ninth International Conference on Numerical Combustion, 2002
 トップページに戻るご挨拶一般報告開発にまつわる話写真集著作権お問い合せ

footer