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一般報告

航空用燃焼器における噴霧燃焼流の数値シミュレーションへのNWTの利用

航空宇宙技術研究所
牧田 光正


1.はじめに

  航空用エンジンでは燃料として炭化水素系の液体燃料を用いているため、燃焼器内部の流れ場は燃料噴霧を含んだ複雑な気液混相流となっている。また、燃焼器中には燃焼制御のためにSwirlerや冷却口等の様々な機構が設けられていることも、現象をさらに複雑にしている。
 

2.噴霧燃焼流の数値解析手法の概要

 噴霧の数値シミュレーションを行う場合、個々の液滴あるいは液滴群を代表する粒子の運動方程式を直接解いてその軌跡を追跡するLagrange的手法と、液滴粒子群を連続流体として扱うEuler的手法の、大きく分けて2種類の扱い方がある。航空分野における数値シミュレーションでは有限差分法を用いた計算が広く行われており、そこで培われた手法を活用するためにここではEuler的手法を採用し、気相及び液相から成る多相流体として扱っている。さらに、液相に粒径分布を持たせるために、図1に示すように異なる粒径を持つ9個の液相のグループを考えてそれぞれを別々の流体として扱い、それらの数密度の比率に分布を持たせることにより液相全体としての粒径分布を与えている。各液相グループの速度・密度・数密度等の流体的諸量は流体の方程式によって解かれ、ある計算セルで液相の蒸発が起こった際には、液相の密度を減じることにより間接的に粒径が小さくなる。その後、セルにおける液相グループの粒径と数密度が求められ、そこでの液相全体としての粒径分布が得られる。この過程を各計算セルで行うことにより、計算領域全体に渡る液相の物性値や粒径分布が得られることになる。



図1 計算領域分割・相分割による計算の並列化の模式図

   以上のモデルの支配方程式には、気相には熱拡散や気体種の拡散を含んだ圧縮性Navier-Stokes方程式と気体種の保存式、液相には圧縮性Euler方程式を適用する。また、気相・液相間の抗力・熱伝達による相互干渉を考慮するため、両相の支配方程式には干渉によって生じる生成項も含まれ、液相の蒸発・燃焼のモデルも組み込まれている。これら一連の支配方程式は有限差分法で解かれる。数値モデル・解法の詳細については、文献[1]等を参照願いたい。

3.実形状燃焼器内部流への適用

  実際の燃焼器を解析対象とする場合、燃焼器中の様々な機構(Swirler、冷却空気口、Film Cooling孔等)が燃焼状態へ及ぼす影響を評価する必要があり、現象が燃焼器全体に渡って複雑となっている。上記の解析手法を3次元実燃焼器形状に適用し詳細な数値解析を行うには、複雑な計算格子系(Multi Block構造格子等)を用いる必要が生じ、更に前章で述べたように混合気体に加えて9つの液相グループを同時に解くために、膨大な計算機メモリ容量と計算時間を要する。
  この問題点を解消するため、当研究所所有のNWTを用いて並列計算を行うこととし、プログラムをNWT用並列化言語NWT-Fortranで記述し、図1に示すように、気相と液相の計算をそれぞれ別々の計算機要素(PE: Processing Element)で行った。これにより1計算領域当たりの使用メモリ量及び計算時間を約半分にする事が可能となった。さらに、複合格子系を用いて個々の計算領域を別々のPEで計算することにより、メモリの制約を受けずにかつ計算時間も大幅に増加させることなく、広い領域に渡って格子を細かく取ることが可能となった。具体的には図1に示すように計算領域をa個の格子Blockに分け、それぞれのBlockに対して気相と液相にPEを1台ずつ割り当て、合計2a台のPEを用いて計算を行った。液相のPEの中にはさらに粒径の異なる9つのグループが含まれている。
 図2に今回解析対象とした3次元モデル燃焼器の計算格子を示す。全体をA〜Cの3つのzoneに分け、Swirler用には15×15×20点の格子Blockを16個(zone A)、SwirlerとChamberの接続部に24×20×41点のBlockを4個(zone B)、Chamber用に20×40×20点のBlockを6個(zone C)と、計26個(約23万点)の格子Blockを用いている。これらのBlockを1つずつ個別のPEに割り当てると、前述のようにBlock数の2倍の52個のPEを用いることとなり各PEのロードバランス等のNWTの運用効率も悪くなるので、任意の数のBlockを1つのPEに割り当て可能となるように改良し、zone Aでは1PEに4個のBlockを割り当てることにより、図3に示すように合計28個のPEに抑えた。




図2 3次元モデル燃焼器の計算格子系と境界名



図3 計算機要素(PE)への格子Blockの割り当て

  図2には計算境界の名称も示してあるが、空気はSwirler境界A1及び冷却口C5から流入させ、気流微粒化された噴霧をB1から流入させている。また、zone間の接続境界A4, B5, B6では接続先のzoneの値から内挿して与えているためzoneの境界で格子点を一致させる必要がなく、これにより計算格子作成の自由度が大幅に広がっている。設計ツールとしてCFDを用いるに際しての大きな障害の一つは複雑な形状への格子生成の対応であり、この手法と前述した並列化技術を合わせて用いることにより、実問題への適応範囲が広がったと考えられる。
  計算例として、温度1000K、圧力1atmの加熱空気中に質量比0.5で平均粒径50μmの液体燃料(n-hexane)を噴出した場合の結果を紹介する。図4に燃焼器中央断面における(1)全体の気相速度場と(2)Swirler付近の速度ベクトルを、また図5にSwirler付近の液相密度(上半分)と液相から気相への質量流束即ち蒸発速度(下半分)の分布図を示す。これらから、噴出口付近での液滴の分散・蒸発、スワーラで発生した旋回流による再循環領域の形成などの現象が確認される。




(1) 全体の気相速度分布


(2) Swirler付近の速度ベクトル

図4 3次元モデル燃焼器における速度分布




図5 3次元モデル燃焼器における液相密度と蒸発速度の分布

4.問題点と今後の課題

  ここで述べた並列化手法は、NWT専用の並列化言語NWT-Fortranで行われているため、他のシステム上で性能を発揮することができない。また同様に言語の制約上、メモリの割り当てを動的に行えないため、格子Blockの順序・大きさ等の情報をユーザーがソースコード中に記入する必要が有り、Block数が増加した場合には煩雑でありかつ誤入力を招き、不便を来している。今後、次期NWTシステムにおけるプログラム開発も鑑み、MPI等の汎用的な並列計算ライブラリと、Fortran90等のより柔軟なプログラム言語への移行を行い、これらの問題点を解消していく予定である。


参考文献
  1. 牧田 光正, 林 光一, 燃焼噴霧における燃料粒子の挙動の数値解析, 日本航空宇宙学会論文集, Vol.498(1996), pp.390-399.
  2. A.K.Hayashi, M.Makida, T.Fujiwara, Spray Jet Combustion Using the Group Combustion Theory, 1995, Begell House.
  3. 牧田 光正, 航空用燃焼器内部流れの数値シミュレーション,第15回航空機計算空気力学シンポジウム論文集, 1998, pp.33-38.
  4. M. Makida, Numerical Simulation of Internal Flow in Aircraft Engine by Parallel Super Computer. AIAA 98-0725, 1998.
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