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一般報告

NWTを用いた非平衡実在気体に関するCFD技術

航空宇宙技術研究所 流体科学研究センター
黒滝 卓司


1.はじめに

  化学反応を含む非平衡実在気体のCFD技術は、主として大気圏再突入を伴う宇宙往還機の開発にとって 重要であり、1980年代半ば頃より、活発に研究成果が発表されるようになった。これらの研究が可能 になった背景としては、極超音速流に適したスキームの開発や物理モデルの定式化等理論面の発展はもち ろんであるが、NWTに代表される大型計算機の高速化、高容量化による寄与が大きい。
  ここでは、航技研で導入したNWTを用いたCFD解析の成果として、3次元非平衡実在気体解析コードの 解析例と、有限触媒性を考慮した高精度空力加熱解析技術を取りあげる。

2.3次元非平衡実在気体解析コードの開発

  非平衡実在気体解析では、一般に反応化学種ごとに連続方程式を解く必要があり、また並進、振動等各エ ネルギーモードを考慮するため、通常の完全気体解析に比べ、メモリー使用量が大きくかつ計算時間も大き い。従って、実用計算を想定した場合、NWT規模の大型計算機が必要となる。
  我々は、1997年から98年にかけて、NWTでの使用を想定した3次元非平衡実在気体解析コードを開 発し、実用形状でのさまざまな流れの問題に適用した。このコードでは、基礎方程式系として化学的及び熱的 非平衡を考慮した3次元Fullナビエ-ストークス方程式、気体モデルとして7成分18反応空気モデル ( O2, N2, O, N, NO, NO+, e- ) を用いている。非平衡を記述するための物理モデルとして、解離反応速度に及ぼす分子 振動緩和の影響を入れるためParkの2温度モデルを、また、分子振動緩和時間のモデル化にはSSH理論を使用 している。対流項の定式化には、和田らによって構築されたAUSMDVスキームを非平衡流に拡張したものを適用 している。
  以上の内容で構成された解析コードは、地球周回軌道からの往還機再突入時の熱環境をシミュレートする ための必要最小限な物理モデルを含んでおり、Parkモデルというシンプルな物理モデルを中心に記述されてい るため、3次元問題においても計算速度等実用性の面で比較的扱いやすい。
  図1に、解析例として、HOPE-X07形状周りのオイルフローパターンを示す。これらの一連の解析では、 3分力の風試との比較も試みており、良好な一致が得られた。特に、極超音速においては強い粘性干渉効果に より抵抗係数の推算が難しいとされているが、図2に示すように、風試結果との比較においてほぼ妥当な結果 が得られている1)。これらの解析例での格子点数は約100万点(約20PE)である。






3.有限触媒性を考慮した高精度空力加熱解析技術

  地球周回軌道からの大気圏再突入を想定した往還機の場合、厳しい空力加熱から機体を護るために、低触 媒を特徴とするシリカ等の材料やグラスコーティングを施したC/C材等を用いることが多い。ここで言う触媒 性とは、衝撃波後方で解離反応により生じた酸素、窒素原子が機体表面でもとの酸素、窒素分子等に再結合す る性質を意味し、たとえわずかであっても、この有限触媒反応があると機体の空力加熱に大きな影響を与える ことはよく知られている。
特に、今後開発される可能性のある将来型再使用往還機では、機体の軽量化が最重要課題の一つであり、機 体重量のかなりの部分を占める熱防護材の軽減化を図るためには、有限触媒性に関する特性やメカニズムを把 握し、より高精度な再突入時空力加熱の推算を行うことが必要とされる。
  我々は、有限触媒性の理論モデルを構築し、これをCFD解析コードに組み込むことにより、OREXの淀み点空 力加熱のフライトデータの再現を試みた2)。理論モデルの構築の際には、物理定数の同定のために多大な数値 実験が必要となるが、これには軸対称実在気体解析コードを使用し、個々の計算規模としては格子点数1万点 程度と小さいが、のべ1000ケース程度の解析を実施した。図3に、OREXの酸素原子の質量分率分布の履歴、 図4に、淀み点における空力加熱のフライトデータとの比較を示す。適切な物理的なパラメータを選択すること により、フライトデータがほぼ再現することができる。
  現在、このモデルを用いて、3次元形状を含む空力加熱の推算、実験との対応解析等を広範囲に実施中である。






参考文献
  1. T. Kurotaki;Estimation of Aerodynamic Characteristics around HOPE-X by Non-equilibrium CFD Analysis, NAL Research Progress 1998〜2000, 2001, pp.36〜37.
  2. T. Kurotaki;Construction of Catalytic Model on SiO2-Based Surface and Application to Real Trajectory, AIAA Paper 2000-2366, 2000.
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